実験18. 卵の遺伝実験

卵色によるメンデルの法則

 一般に,突然変異の遺伝子の形質を示す個体は致死しやすいものが多い。そのため変異系統の個体と標準型の系統の個体の交配種およびその次世代について調査する場合,孵化率の低下や飼育中の死亡個体などで調査個体やその繭の数が減少することがある。しかし,卵の時期に形質の調査ができるのならば,致死個体が少なく,簡単に多数の個体の調査が行える。また,休眠卵を冷凍保存しておくと卵は死んでしまうが,卵色はほとんど退色しないので,いつでも調査を行う事ができる。

 

 

カイコ卵の色

 発生過程の順を追って卵色を観察すると,産下直後では卵殻がほぼ無色透明なため内部の卵黄が透けて見え,黄白色を呈する(図1)。産下 1 日後には漿液膜(しょうえきまく)が形成され,漿液膜細胞で色素合成が始まる。産下 2 日目以降,着色が進み,黒く着色する(実験22参照)

 カイコ卵の色素はトリプトファンから作られるオモクローム系の色素で,成虫の眼色とほぼ同じ色素である(白卵から孵化した蛾は白眼,赤卵からは赤眼となる)。ショウジョウバエの眼色も同じ色素であるが,カイコの方が色を判別し易い(実験18,図5参照)。 

実験1:正常着色卵系統と赤卵系統の F2の分離

 変異型の赤卵(劣性:赤色)の系統と標準型の正常着色卵(優性:黒色)の系統の交配によって得られた F2 の卵色の分離比が,メンデルの法則(単性雑種の分離比3:1)にあてはまるかどうかを検定する。

材料と方法:標準型の系統(黒色の正常着色卵: +re/+re)と変異型の系統(赤卵:re /re )を交配し,産卵された卵 (F1) は正常着色卵 (re /+re) となる(図2左)。この卵を孵化させ,F1 の成虫同士を交配し,産卵された卵 (F2) の卵色の分離を調査する(図2右)1 頭のメス成虫の産卵した集団(蛾区)ごとに調査を行う。

注:潰れ卵,白卵,未着色の卵は受精しなかった卵または発生初期の段階で致死した卵のため,卵数の計測には含めない。 

実験2:検定交配における分離

 交配した子世代(F1)と,その両親のいずれかの個体との交配を戻し交配という。交配する個体は真の親でなくても,同一の遺伝子型をもつ個体で良く,戻し交配は育種で良く使われる方法である。同じ交配ではあるが,ある対立遺伝子について劣性の遺伝子をもつ個体との戻し交配は遺伝子型を明らかにする方法で検定交配と呼ばれる。

 変異型(劣性)の系統と標準型の系統との交配によって得られた F1 に,変異型(劣性)の系統を検定交配した場合,正常着色卵と赤卵の分離比が 1:1にあらわれているかどうかを検定する。

材料と方法:検定交配は2通りある。(標準型の系統×変異型の系統)♀×変異型の系統♂(3),または変異型の系統♀×(標準型の系統×変異型の系統)♂(図3右)。それぞれの蛾区の卵色の分離を調査する。 

 どちらの交配でも正常着色卵と赤卵が11に分離する。赤卵(劣性の形質)数は理論比より少なく,未着色卵が多いことがある。劣性の形質を示す個体は死にやすく,発生初期に死卵(未着色卵)となるためである。分離比が理論値に当てはまらない時は「正常着色卵」:「赤卵+未着色卵」=11として検定すると,赤卵が死卵となりやすいことが分かる。

 どちらの交配でも卵色の分離は同じであるが,交配種 (F1) を♀にした蛾区の方が産卵数が多く,未受精卵が少ない。交配種 (F1) では雑種強勢により,交配していない系統(親の系統)に比べて不具合のある卵が少なく,産卵数が多くなる。変異型の系統では標準型の系統に比べても産卵数が少なく,不具合のある卵が多くなる傾向があるため,交配種♀と変異型の系統♀との間で差が大きくみられる。

 

 

 卵での調査は幼虫に比べて準備や調査が容易だが,卵1個が1個体である実感が乏しい。赤卵から孵化した個体が赤眼の蛾に,正常着色卵(黒色の卵)から孵化した個体が黒眼の蛾になることを考えながら調査すると良い。

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